キャンディートゥリーの白いおうち

 

そこは・・・ サラサラと流れる小川の囁きを聞きながら
寄り添うように並んだ小道を、まっすぐ行った先の森の中に
ひっそりと建っています。

木の小枝には、見たこともない美しい鳥達が喉を震わせ
トゥル トゥル トゥーと歌っています。

歌に引き寄せられるようにして小道を進んでいくと
そこにひっそりと、優しいお顔をしたお家が建っています。

お家のまわりを白いペンキで塗られた柵がグルリと廻っていて
その柵の真ん中の扉を開けて入っていくと
中には、小さな小さなお庭があります。

お庭の右側には、色とりどりの花たちが
まるで肩をゆらすようにして、踊っています。

そして左側には、大切に大切に育てられた
小さな野菜畑があります。

野菜畑とお花の間を通って奥へ・・・

足元の真っ白い砂利が、チャリッチョリッと
歩く度に囁きます。


さぁ、真っ白い木のお家がお出迎え。
玄関の扉の横には、小さな木の椅子が置いてあります。

椅子の上には、古びた板がのせてあり、
板には白いペンキで全体を塗り、真中に黒いペンキで
申し訳なさそうに小さく小さく文字が書いてあります。


「見えない雑貨店」・・・見える方のみお入りください、と。

 

*

 


白い木のお家には、黒猫のソラが住んでいます。
森の中にひっそりと建ったその白い家の中で
ソラは、大好きなお裁縫をして過ごしているのです。
カバンや、袋ポーチ、鍋つかみ、そしてお裁縫に欠かせない
ピンクッションなどの道具たち。
ソラは、出来上がると嬉しくなってお部屋の中に作ったものを
飾るのでした。

ソラは、空想を作るのもすきでした。
お部屋の片隅に仕舞い込んでいた、小人の人形を取り出して
木の箱をお家にみたてて、小人のお店を作ったり、小さな絵本を作ったり。

いつしか、そうしてソラが作ったものたちでお家の中は溢れるばかりになりました。
出来上がるたびにお部屋の中に飾っていたので、お部屋は雑貨屋さんのように
なっていました。
ソラは、この小さな家をお店屋さんにしようと思いました。
まだ看板もない、お店でした。

お店屋さんには、時々小川の囁きに聞き惚れて付いてきた人や、動物たちが
やってきます。そして、ソラの作ったものを果物や木の実と引き換えに
大切に抱えて帰るのでした。

ある日、毎日やって来る常連客の猫さんが言いました。
「あら?素敵なピンクッションがあるのね。今日の新作ね。」と。
そして、そのピンクッションを赤いバラの花と交換していったのでした。

でもそのピンクッションは、ソラがこの家に住むようになって、初めて作ったものでした。
ソラは、面白いことに気付きました。

その日の心模様で、お客様はお買い物をしていくのだと。
もし、その日がとても幸せに満ちていたら、お客様はピンク色のものを買っていく。
もし、その日が少し悲しみを帯びていたら、お客様は水色のものを買っていく。
お客様は、その日によって見えるものと見えないものがあるのだと。


ソラは、部屋の奥にある物置部屋から小さな椅子をひとつ持ってきました。
それから、埃を被った板きれを綺麗にし、雑巾でからぶきしたあと、そこに
白いペンキをかすれるように塗りました。
少し乾いた後で、板の真ん中に黒いペンキで小さな文字を書き、玄関の横に
椅子を置き、手つくりの看板をのせました。
こうしてソラの「見えない雑貨店」が出来上がりました。

 

*

                       
あなたは、今日はどんなものを目にしましたか。
それは、何色だったのでしょう。
今日手にしたものは、あなたにどんな喜びをもたらしてくれるのでしょうか。
ソラは、今日も森の中にある白いお家で何かを作っています。
ふらりとやってくるお客様が目にしたものと一緒に、ふんわりとした幸せを
持ち帰るように・・・。