森へ棲む

 

 

 

 ソラは、もともと生まれたときからこのキャンディートリィの森に住んでい
たわけではありません。
キャンディートリィーへ来る前は、「ボンボダイジュの小さき者たちの森」
という、小さな小動物や、小人たちが住んでいる森で、小人のオモリー一家と
一緒に暮らしていました。

 小人にもいろいろな種族がありますが、オモリー一家は、「トゥィットゥリー」
という小人族です。トゥィットゥリー小人族は木の穴の中に棲み、身なりを清潔に
し、そして自然と調和し森の中のモノで工夫して生活する特徴を持っています。
 小人族の中には、派手なものを好み人間の住処の隙間にこっそり棲んでは、人間
と同じように音楽やダンス、お洒落に興じるそんな小人族もいるのですが、トゥィ
ットゥリー小人族はそれにくらべ、とっても質素でした。

 オモリー一家は、5人家族です。
お父さんのオモリー、お母さんのモモニー、長男チョリーノ、長女チョリーナ、
そして、末っ子のチョチョリです。
 
 木の穴の中で猫のソラと小人たちが生活するなんて、ソラの体が入っただけで
パンパンになってしまう気もしますが、ソラは生まれたとき3cmほどしかあり
ませんでした。
 トゥィットゥリー一族は、身長6cmほどの小人族なので、3cmしかない
ソラは、まさに小人の中の小人猫とでもいった感じでした。


***

 

 ソラは、森の樫の木の根元に、春に出てくる芽のように、ちょっこりとキルト
にくるまれ、横になって眠っていました。
まだまだ小さな赤ちゃんなのに、鳴き声もあげず、森の葉の掠れあうささやきを
子守唄にして、気持ち良さそうにスヤスヤと眠っていました。

 そこへ、木イチゴを摘んで帰ったモモニーが通りかかったのです。モモニーが
木の枝をパキッと踏んだとき、
「ウニャ」
と、ソラが寝言を言いました。
モモニーは、飛び上がらんばかりにびっくりして、小さな体の毛がすべて逆立ち
ましたが、木の根元に眠る太陽の光をキラキラと浴びて輝いている猫の赤ちゃん
を見つけたときには、その逆立った毛もゆら~りと踊るように元に戻るのでした。
 ソラに近づいて様子を見ると、首にネックレスが付いています。ネックレスの
先には、丸い銅でできたプレートのようなものが付いていて、そこには、

「sora」

と、刻まれています。

「まぁ、どうしてこの「小さき者たちの森」に仔猫ちゃんがいるのかしら?」と
モモニーはひとりごちましたが、3cmほどしかないソラを見て、
「えぇ、えぇ、あなたは充分すぎるほど、小さき者ですよ」
と、微笑み、つぶやいた後、手に持っていた木イチゴの籠を地面へ置いて、エプ
ロンをはずし、籠の中の木イチゴをそこへ移した後、着ていたカーディガンを籠
の底へ敷き、そぉーーーっとソラを抱き上げて、
「さぁ、我が家へ急ぎましょう。きっとみんな、木イチゴとソラちゃんを見たら
喜ぶに違いないわょ」
そう言って、ソラを抱え飛ぶように帰っていきました。

 

***


 さてさて、家へ着いてみると、みんな小さなソラを見てはしゃいだり、溜息を
ついたり、両手で口を押さえ息を止めてみたり、長男のチョリーノなんて両目を
指で上下に押し開けてソラを見ていたので、それはそれは恐ろしい形相。しまい
には、オモリー父さんまで、くしゃみをしてはいけないと、鼻の穴に指をつっこ
む始末で、ソラを家族に迎えたことで大騒ぎでした。
 チョチョリがそぉっと腕を差し出し、ソラを抱き上げました。家族の中で一番
喜んでいたのは、チョチョリでした。なぜなら、チョチョリは自分より下の弟か
妹が早くできないかと、ずっと心待ちにしていたからでした。

「ようこそ!オモリー一家へ!!」

チョチョリは、ソラを少し上へ持ち上げて、それからすぐ自分の胸へ抱き締めました。
こうしてソラは、オモリー一家の大事な家族の一員になりまた。