胡桃スープの朝食

 
 
 ボンボ団地に住む、オモリー一家の部屋からは、毎朝子供たちの
笑い声に交じり、猫のソラのニャーという鳴き声も聞こえてくるよ
うになりました。

 そんなにぎやかな朝に、オモニー一家の丸い玄関扉をノックする
音が聞こえました。
ソラを抱いたモモニーがドアを開けると、

「おはようございます。ウスです。」

玄関の前には、ボンボ団地のしまりすの管理人ウスとクスがが、大
きな胡桃をたくさん抱えて立っていました。

「今日はね、胡桃がたくさん取れたんです。だから、いつもより倍
の胡桃をお配りしますよ。」

と、ウスがニコニコして言いました。

「まあ、うれしい!とってもたすかるわ」

モモニーは大喜びして言いました。

「じゃぁ、今日は母さんの胡桃スープにありつけそうだね」

モモニーの後ろからオモニーがにゅっと顔を出して言いました。

「あら、父さん。それならウクスの実がないと・・。今は切らして
いてないのよ」

「それなら、母さん、朝のお散歩のついでに私が取ってくるわ」

チョチョリーナが部屋の奥から出てきて、そう言ってウスクス兄妹
に挨拶して玄関扉から出ていきました。

「じゃあ、父さんも一緒に行こう」

「あら、助かったわ、じゃ頼むわね。。では、ウスクスさんよかった
ら、一緒に朝食を召し上がっていって?」

モモニーがウスに尋ねると、ウスが返事をする間もなくウスの後ろか
らクスが「是非是非!ごちそうになりますね」と答えたので、ウスは
顔を真赤にしましたが、オモニーとモモニーとクスは、その間のタイ
ミングに大笑い。しまいには、ウスもつられて笑っています。モモニ
ーに抱かれたソラだけが、何事が起ったのかとポカンとした顔をして
いました。


 部屋の中へ入ったウスとクスは、まず管理人の勤めとして部屋の中
をぐるりと一周して点検してみてまわりました。
その様子を見ていたソラは、ウズウズしてきてモモニーの腕から飛び
おりて、ウスクスの後ろを一緒について部屋の周りを一周しています。
 ウスクスは追いかけられているような感じで、2周、3周と部屋を
グルグルまわり息を切らしながら、モモニーに聞きました。

「この猫ちゃんは?」

「先日、我が家の家族になったソラですよ。」

 モモニーは、グルグル回る3匹をお構いなしに奥の部屋へ入り、朝
食作りにかかりました。

「猫にしては、随分小さいんですね」

と、クスが後ろをついて回るソラを見ながらいいました。

「そうなの。」どこの猫族なのかわからないけれど、森の樫の木の下で
眠っていたんですわ。こんなに小さな仔猫は見たことないですわね。」

「もしかしたら、まだ私たちの知らない猫族がこの森の外に棲んでいる
のかもしれないですね~」

そう言いながら、ウスは少し足をゆるめました。

「さぁさ、みんな少し走るのをやめて。ウスクスさん。今日の胡桃を見
せてくださいね。」

モモニーがお鍋の準備をして奥から顔をだし、丸い部屋の真ん中に座りま
した。ウスもクスもすっかり走り回るのに夢中になり胡桃を持ってきた事
を忘れていましたが、そう言われて急に走るのを止めたので、後ろからつ
いて走っていたソラは、ウスクスに思いっきりぶつかり、その勢いでゴロ
ゴロと部屋を転がっています。スープのコトコト煮える匂いにつられ、目
が覚めて起きてきたチョチョリの足元へぶつかり、やっとソラは止まるこ
とができました。


 チョチョリがソラを抱きモモニーのそばへ行く間に、急いでウスクスは
チョチョリーノに手伝ってもらい、胡桃を玄関から運び入れました。

「ほうら、見てくださいよ。立派な胡桃でしょう?今日は森で20コリン
も見つけたんですよ。家へ運ぶのにクスと何往復もしてしまったよね」

クスは、ウスに言われてブンブンと頷き、

「クスクス・・でもこうして持ってくる時には、中身と殻は分けてくるか
ら大丈夫・・クスクスク」

そう言って笑ながら胡桃を一つ手に取り、殻のまわりに実がまだ残ってな
いか、もう一度覗き込んでから腕に愛おしそうに抱きました。
そんな食いしん坊のクスの様子を見て、ウスはやれやれと溜息をつきました。

「まあ、ほんとに今日の胡桃は立派なこと。実も大きくて。これなら色々
なものに使えそうね。」

モモニーは、胡桃の殻をいじって遊んでいるソラを見て、思い出して言いました。

「そうだわ。ウスクスさん。少し大きめの胡桃の殻はないかしら?このソラ
のベットが出来上がるまでの間、しばらく胡桃の殻を寝床にしてあげようと
思うの。」

「ああ、それならねずみチョロチョロ年の初めに、普通の胡桃に交じってひとつ
ふたつと大きな胡桃があった。あれなら丁度いいかもしれない」

「殻が大きいだけで、実はイマイチだったけれどね。・・クスクス」

「実は、クスが全部食べちゃったから僕は味はわからないっ」

ウスはジロリとクスを睨みながら言いました。

「あら、よかったわ。まだソラも小さいからしばらくは大丈夫だと思うの。
それじゃあ、ひとつ分けていただけるかしら?」

「お安いご用ですよ」

ウスとクスがにっこりして言いました。

 

「ただいま~~~!母さんもうスープは出来たころなんじゃない?」

そう言って、オモリーとチョチョリーナは、ウクスの実を籠一杯に抱えて
帰ってきました。

「そうね、ちょうど食べごろになっていますよ。それじゃあ、みんな揃った
ことだし、ウクスの実もあることだし、朝食にしましょう」

そう言ってモモニーは、ウスクスにもらった新しい胡桃の実を持って奥の部屋へ入
っていきました。
慌ててソラも追いかけます。


「ウスクスさん、モモニーのスープは絶品だよ。スープの上にウクスを振りか
けると、チーズのような香りがしてね。もう鼻と口とほっぺたが一緒くたにな
ってしまうよ」

ニヤリと笑いオモリーは、ウスクス兄妹にウィンクしました。2匹は返事をする
代わりに、ゴクリと喉を鳴らし鼻をヒクヒクさせるのでした。